スキット 寒かったから
「寒い!!!!」
部屋に飛び込んで来るや否や、そんな悲鳴が聞こえた瞬間、シンクの外套の隙間から滑り込み臀部(でんぶ)にぴたりと密着するものがあった。――の手だ。
「なっ、にやってるんだよ!? バカじゃないの!!」
慌てて身をひるがえし、手を引き剥がす。振り返りざまに濡れ羽色の頭を思い切りはたいてやった。
本当に、なにをやっているんだ、このバカは!?
しかし当の本人は、はたかれた頭をさすりつつ若干涙目で「だって温かそうだったから」などと供述しており。
「本当にバカじゃないの!!」
肩を怒らせて去っていくシンクの顔が、それはもう茹蛸のようだったことを知る由もない。
スキット 寒かったから
2018.01.27 初出
2022.04.22 加筆修正