背。二人並んだ、
華奢なようでいて、己のそれよりずっとたくましい背中が少し寂しく見えた。
白い衣装が沈みかけたレムの赤い光に染まっている。彼が腰かけている瓦礫も、周りの白亜も、すべてが真っ赤。
明日は晴れになるかもしれない。
預言がなくとも、そんなものに頼らずとも、空を見ればわかること。
しかし人類は己の力で物事を知ろうとせず、意思を持とうとせず、すべてを預言に委ねていた。
「立ったまま寝てるの」
シンクがこちらを振り向いていた。なだらかな曲線を描く頬は茜色に染まり、今やそれを覆ってしまうものはない深緑の瞳も夕陽の赤と重なりあい不思議な色をしている。
「隣、座ってもいい?」
「好きにすれば」
許可を得たので、はシンクの隣に腰を下ろした。二人並んで、言葉はなく、沈みゆくレムを眺める。
言いたいことは、あった。でも、言えない。
二人で逃げちゃおうよ、なんて。
もう引き返せないところまで来たのに。どこまでも着いてゆくと決めたのは自身だけれども。
エルドラントを浮上させ、あとは、世界をまるごとレプリカに作り替えるだけだ。
――その先の世界にはいない。そういう手筈になっている。のレプリカは作られるものの、それは見た目が同じだけの、全く別のにんげんだ。
……シンクは、それをどう感じているのだろう。
嫌になるまで傍に置いて、と言って、今までずっと傍に居続けた。
そのがいなくなることを、少しは寂しく感じてくれていたら嬉しい、と思う。
明日、最終決戦に勝てば。
レプリカしかいない世界で、シンクは生きていく。
それがにはたまらなく寂しい。
だから、つい、戯言を言ってしまった。
「あのさぁ」
「なに」
「あたしのレプリカとも、仲良くしてあげてね。記憶がなくても、それはあたしだから」
「……気が向いたらね」
地平線の向こうにレムが落ちきるまで、二人はそうしてずっと、隣に並んでいた。
背。二人並んだ、
2023.03.24 初出