between 11/30 and 12/11

 その日。朝、目覚めたは今日がいつなのかを起き抜けの頭で思い出し、途端に胸を躍らせた。
 12月5日。
 ガイアとの誕生日の間を取って、二人きりの誕生日パーティーをしようと約束していた日がついにやってきた。
 正確に計算すると、11月30日と12月11日の中間の日は5日から6日にかけてとなる。そのため、日付が変わる瞬間も一緒に過ごせるようにと二人とも明日は休みを取ってある。
 身支度を終えてから、はキャビネットの上に置いてある大小二つの包みに目を遣った。
 一つは縦長の紙袋。中に入っているのはエンジェルズシェアで買った新作のボトルワインだ。これは夕食のときに渡して開けるつもりで準備をした。もう一つは、手のひらに乗るサイズの、リボンを巻いた小さな布の包み。中身を思い描き、果たして喜んでくれるだろうか、と思いを馳せる。たぶん、きっと、ガイアは喜んでくれる……と思う。そう願いたい。
 ともかく、プレゼントの準備は万端だ。あとは今日の仕事がなにごともなく終わることを祈るだけ。
「行ってきます」
 とっておきの、一日が始まる。


 *


 羽根ペンを走らせる音が静かな室内に響くなか、は壁掛け時計に視線を向けた。時刻は17時45分過ぎ。そろそろ退勤時刻が迫っている。片付けている書類も残り僅かだ。なにごともなければ、このまま時間通りに上がれるだろう。その先で待っているのは二人きりのパーティー。期待で胸が高鳴りを覚えるのを止められない。
 しばらく黙々と手を動かし、書類の最後の一枚を書き終えた。インクが乾くのを待ってから一つにまとめ、ガイアの元に持っていく。既に書き物を終えて後片づけを始めていた彼は、から書類の束を受け取ると、ふっと笑みを浮かべた。
「お疲れさん。この後が楽しみだな」
「そうだね」
 も微笑みを返す。実際、とてつもなく楽しみだった。初めての恋人と過ごす、初めての誕生日パーティー。どれほど楽しい時間になるだろうかと予想して浮かれるあまり、仕事でミスをしないよう気を引き締めるのが大変だったくらいだ。
 使った資料を棚に戻し、未処理の書類は締め切りが早い順番にまとめ直し、机の上を整理整頓する。明日は休みを取っているので、次に出勤するのは明後日となる。その間に書類がきっと回ってくるだろうから、執務机に空き空間を作って置くことはとても大事だ。
 最後に机の上の燭台の火を吹き消す。先に後片付けを終えていたガイアも続けて灯りを消すと、室内は薄暗くなった。冬は日暮れが早い。窓から差し込む月明かりがわずかな光源となる。
「荷物を取りに一旦寮に戻るから、お前は先に鹿狩りに行って料理を注文しててくれ」
 執務室を出しなに、ガイアが声をかけてくる。次いで流れるような仕草での頬に口付けてきた。
 ごほんっ、と誰かの咳払いが耳に届く。
「……だからっ、人前では止めてくれと言ってるだろう!」
「ははっ」
「ああ、もう!」
 の抗議にも、ガイアは笑うばかり。
 気恥ずかしさから軽く肩を怒らせながら、は一旦ガイアと別れた。


 騎士団本部を出て、入口を守る騎士に挨拶をし、モンドの街並みを見下ろしながら階段を降りる。騎士団本部はモンド城内でも高台に位置するため、出勤時と退勤時に見晴らしのいい眺めを堪能できることがの密かな楽しみだった。
 冬を迎え、日が暮れるのは日増しに早くなっている。辺りはすっかり暗くなり、街灯がぽつりぽつりと明かりを灯している。空を仰げば月が昇りかけいて、冬の空に冴え冴えと光っていた。
 月明かりと街灯を頼りに暗い道を歩く。噴水のある広場まで降りると、この辺りは日が落ちても賑わいを見せていた。行き交う人々は歩みを進め、思い思いに酒場に入っていく。はだいぶ席の埋まっている鹿狩りへと足を向けた。カウンターに立っていた看板娘のサラが彼女に気付き、にこりと笑顔を向けてくる。
「こんばんは、さん。お仕事お疲れさまです。席ならまだ少し空いてますよ」
「こんばんは。持ち帰りでいくつか頼みたいんだけれども」
「分かりました。ご注文はどうしますか?」
「うーんと……」
 差し出された持ち帰り用のメニュー表を見ながら、どれを注文しようかを考える。パーティーで何を食べるか、ガイアとは特に相談していなかった。けれども別れ際になにも言われなかったので、勝手に注文しても問題ないだろう。メインに肉料理があれば文句はないはずだと考え、メニューを指差しながら、注文を決めていく。
「ニンジンとお肉のハニーソテーと、鳥肉と野生の串焼きと」
「はい」
 肉だけではメニューが偏るので、全体のバランスを考えつつ。
「満足サラダに、ホワイトソースポトフと、」
「あとはムーンパイだな」
「ひゃっ!」
 突然耳元で声が聞こえ、とっさに悲鳴をあげてしまった。
 ――誰の仕業かなんて、声だけで分かる。の悲鳴に目を丸くしたサラを横目に振り返ると、悪戯が成功した、と顔に書いてあるガイアがいた。
「ガイア……!」
「好きだろ? ムーンパイ」
「そうだけど、そういうことじゃない!」
 咎めるように睨んでも、ガイアは涼しい顔で「デザートにミントゼリーも頼む」と注文を続けている。
 は内心でため息をついた。さっきの騎士団での別れ際といい、どうにも自分はガイアに翻弄されがちになる。それ自体は決して、嫌ではない。ただ、人目があるところでされると、結果として自分の醜態を晒すことになるので恥ずかしい。止めて欲しいと言えば一時的に止めてくれるものの、ほとぼりが冷めた頃には元通りだ。もっと強く拒否するべきなのだろうか。でも、嫌ではないから……。
 が内心で悶々としている間に、気付けばガイアは会計を終わらせていた。注文した料理は二人では持ちきれないので、熱々が美味しいソテーとポトフの配達の手配まで済ませてある。
 持ち帰る分の料理ができあがるまでの間、鹿狩りのスタッフの邪魔にならない場所で待っていると、ふとガイアの手に目が留まった。小ぶりで小綺麗な、どこかの店のロゴが入った紙袋を提げている。それに気付いての胸がどきりと跳ねた。あの中に、自分へのプレゼントが入っているのだろう。けれどもそれを今ここで指摘するのは野暮だと思い、気づかないふりをする。
 ふと視線に気付いたのか、ガイアが空いている片手をするりと絡めてきた。「寒いな」と小さく笑う姿に、手袋越しに熱が伝わってくるような気がした。
 こういう所も叶わない、と思う。


 *


 テイクアウトの料理を二人で分担して持ち帰ってすぐ配達を頼んだ料理も届いたため、の自宅のテーブルには所狭しと皿が並んでいる。それを眺めたガイアが、そういえば、と口を開く。
「飲み物のことを忘れてたな。どうする? 今から買ってくるか?」
「それなら大丈夫。買ってあるから」
 はキャビネットに近寄り、その上に鎮座していた縦長の紙袋を手に取ってテーブルまで戻る。
「これは、わたしからのプレゼント」
 少し面映ゆい気持ちになりつつ、テーブルに置いた紙袋からワインボトルを取り出し、ガイアによく見えるよう掲げた。の手にあるものが何なのか気付き、ガイアは隻眼を丸くしてボトルのラベルをしげしげと眺める。
「こいつは驚いた、エンジェルズシェアの新作じゃないか。開けるのが楽しみだな」
「ふふっ、喜んでもらえてよかった。さ、乾杯しようか」


 鹿狩りで頼んだ料理はどれもやはり美味しかったし、用意したワインは程よい酸味と甘味が混ざり合って口当たりもまろやかで、とても美味しかった。
 食事を満喫し、料理を平らげた二人はソファに並んで座り、ワインの入ったグラスを傾けながら食後の余韻に浸っている。
「やっぱりムーンパイは美味しい。好きだな」
「知ってるか? ムーンパイといえば、遊撃小隊のエウルアの得意料理らしいぜ」
「本当? でも彼女とはあまり話したことがないな……騎士団本部にもそんなに顔を出さないから」
「今度会った時にでも話してみればいいさ」
「ふふ、それもそうだ」
 は微笑み、手の中のワイングラスを傾けてワインを飲んだ。芳香が鼻を通り抜けて行くのを感じながら、美味しい、と呟く。程良く酔いが回り、いつもより口数が増えている自覚はあった。あまり飲みすぎないようにしなければ。まだ渡してないプレゼントがあるのだから。
 そんなの考えを見透かしたかのように、ガイアはワイングラスをテーブルに置くと、例の紙袋を差し出してきた。
「俺からのプレゼントがまだだったな。受け取ってくれ」
 もワイングラスをテーブルに避け、紙袋を受け取る。印字されたロゴに見覚えがあるような気がする。お洒落に詳しくないですら知っているブランドだったはずだ。
 期待に胸を踊らせながら中身を覗くと、箱が二つ、入っていた。
「開けてもいい?」
「ああ、もちろんだ」
 袋を膝の上に置き、中から箱を取り出す。細長くて軽い小箱と、それより少し大きくてやや重さのある小箱。
 まず細長い方の小箱を開け、中身を取り出し、驚きで息を呑んだ。思わずガイアを見ると、彼は優しい眼差しをこちらに向けている。
「ガイア、これ、」
「見てただろ?」
 小箱の中身は口紅だった。それも、少し前にガイアと出かけた時に、街で見かけてわずかな間だけ足を止めてしまった冬の新色の。綺麗な色だと思ったけれども、普段、仕事でつける訳にもいかないので、結局買わないことにした、それ。
 店頭で見ていたのはほんの短い時間だったのに、そんな些細なことを覚えていてくれたことが嬉しくて、じんわりと胸が温かくなる。
「嬉しい。……ありがとう」
「もう一つも開けてみないか?」
「ああ、そうだね」
 やや重い小箱を、中身は何だろうと胸を躍らせながら蓋を開ける。
 箱の中に入っていたのは、ガラスの小瓶だった。瓶の中で液体が揺れている。
「これは、香水?」
「お前に似合うと思って、な。試しに着けてみてくれないか」
「うん」
 瓶の蓋を外し、噴き出し口の向きを確かめてから、素肌の手首に一拭きする。とたんに、透き通るような、それでいて少し花のような甘さのある香りが立ち昇ってきた。香りの種類には詳しくないけれど、花のようなかぐわしさが心地よい。
「どうだ?」
「うん、いい香りだと思う。好きだな、この匂い」
「そいつは重畳、っと」
「わっ」
 ぐい、と香水を着けた手首を掴まれ、軽く引っ張られた。突然のことに体勢を崩しガイアに寄りかかると、彼はの手首を自分の鼻先に寄せ、すぅと息を吸いこむ。
 吸って、吐いて、数呼吸。
「……確かにいい香りだな。お前によく似合ってる」
「ならいいんだけど……あの、そろそろ離して」
「もう少し堪能させてくれ」
 密着した姿勢のまま、ガイアの手がするりとの腰に回った。その手つきに、はまずいと察知した。
 この雰囲気と体勢は、まずい。このまま流れで事に及んでしまう。それは困る。
「ま、待って。もう一つプレゼントがあるから待って……!」
 慌ててガイアの胸を軽く叩くと、彼は渋々といった風に解放してくれた。そのことにほっと胸を撫で下ろしつつ、立ち上がってキャビネットまで包みを取りに行く。青いリボンで口を閉じてある布の包みは、自分でラッピングしたから少し形が悪い。
 包みを手に戻り、ソファに腰を落ち着けてから、ガイアに差し出した。
「開けてみて」
「何が出てくるのか楽しみだな」
 ガイアの節だった指が、しゅるりとリボンを解く。布の包みから出てきたのは――
「鍵?」
「この部屋の、合鍵」
 灯りを受けて鈍い光を反射するそれは、ワーグナーの鍛冶屋で作ってもらった鍵だった。
「合鍵」
「そう。ここを退去するときに錠ごと交換する約束で大家さんに許可を――」
 貰って。
 そう続くはずだった言葉は、けれども発することは敵わず。
 重なった唇から、ガイアの喉に吸い込まれた。
 突然のキスに驚いている間にも、口付けは段々と深くなっていく。頬を両手で包まれ、角度を変え、何度も何度も唇が重なっては離れ、また重なる。
 そうしているうちに、ただでさえ酔いが回っている頭の芯が徐々にぼやけてきて、与えられる唇のやわらかさに酔いしれていく。
「ん……はぁ」
「全く、お前ってやつは……」
 しばらくしてから唇を離し、二人は視線を絡ませた。互いの瞳に宿る、欲の色を確かめ合う。
「本当に、鍵は貰っていいんだな?」
「うん……いいよ」
 それを合図に、再び唇が重なった。


 *


 
 ガイアに抱えられたは、ベッドにゆっくりと降ろされた。仰向けに横たわった身体の上にガイアが跨り、のワンピースの前をくつろげていく。その手つきは優しい。
 何度も身体を重ねているのに、事の始まりはいつも緊張する。アルコールのせいだけではなく、の心臓は強く鼓動を鳴らしていた。
 くつろげた胸元にガイアが顔を寄せてきた。ちゅ、と音を立てて肌が強く吸われる。ちゅ、ちゅ、少しずつ位置を変えながら何度も吸い上げてくる唇の感触がくすぐったく、わずかに身をよじった。
「んっ……」
 肌着の上から胸を触られる。形を確かめるように何度か撫でてから、おもむろに肌着のボタンを順番に外して前を開け、両手で素肌の胸に触れてきた。やわやわと、大きな手が豊かな二つの膨らみをゆっくり揉み始める。の胸はそれなりに大きさがあるが、ガイアの手にかかればすっぽりと収まってしまう。
 胸を揉みしだきながら、ガイアがキスをしてくる。初めは啄むようなそれが、角度を変えながら段々と深いものになっていく。
「は、」
 息継ぎのために口を薄く開けばそこから舌が侵入してきた。口腔内をじっとりと舐め回される感触に、首の後ろ側がぞわぞわとする。かと思えば舌を絡め取られた。
 胸と、舌。双方から与えられる刺激に、の頭の芯がだんだんと解けていく。ざらざらとした舌の表面を互いに擦り合わせ、ぬるりと肉厚な舌を絡め合い、飲み込みきれなくなった唾液が唇の端からこぼれ落ちていく。
「ん……はぁ、」
 ひとしきり互いの舌の感触を味わったところで唇が離れていく。の、もはやどちらのものか区別のつかない唾液で濡れた唇が、室内灯の明かりを反射して艶めかしい。
 キスの間にも揉みしだかれていた胸は、与えられる刺激で先端がぷくりと熟れていた。ガイアはそれをぱくりと口に収めてしまう。
「ん、」
「はっ……、うぅ、ん、あっ」
 吸われ、転がされ、時折歯を立てて軽く食まれる。空いている方の胸の先端も指で摘まれ、弾かれ、こねられて。その一つひとつの快感をつぶさに捉えるたび、の身体が震え、段々と熱を帯びていく。
「んっ、ぁ」
 ベロリ、と舐め上げてからガイアの唇が胸の頂から離れた。じっくりと刺激されたそこはすっかり濡れそぼり、外気に触れて少しヒヤリとする。もう片方の胸を触っていた手も離れていったかと思えば、所在なげにシーツを掴んでいたの手に触れてくる。ガイアの手が、手首、前腕、肘、と上へ上へと辿っていき、くつろげてはだけかけていたワンピースの襟元にまでたどり着いた。そのままワンピースを脱がされ、肌着も取り払われた。脱がされた衣服が静かな音を立てて床に落ちる。
「ん、ガイア、」
「……
 が呼べば、ガイアが再び唇を重ねてきた。合間あいまに音を立てるような、啄むような愛らしいキス。その間にガイアの手でのタイツがするすると膝まで下げられる。
 ガイアは唇を離して身を起こし、タイツを完全に足から抜く。それから自身が着ているものも脱ぎ、ベッドの上から放り投げた。ぱさ、ぱさ、と衣擦れの音がいくつもする。
 それをは熱で潤んだ瞳で見上げていた。体を交える度に思うことだけれども、鍛えた筋肉の隆起にため息がこぼれる。いつだったか「わたしもガイアくらい肉があれば……」と零したところ「抱き心地が悪くなりそうだから諦めてくれ」と言われてしまったが。
「ん、どうした?」
 服を全て脱ぎ終えたガイアがの視線に気づく。は軽く首を振り、
「ううん、何でもない。……ガイア、すき」
 隻眼がまるく見開かれた。
「~~~~、はぁ……」
「なにか、変なこと言った?」
「なにも言っちゃあいないが……少し刺激が強かったな」
 ガイアは上体を倒し、に覆い被さった。その拍子に、布地越しでも分かる固い感触がの太ももに触れる。
「っあ、」
「責任はきちんと取ってもらわないと、な?」
 ガイアの指がのショーツの端にかかり、する、と脱がしていく。いまさら抵抗などなく、足から引き抜いたそれもベッドの上から退散してもらった。
 これでが見に纏うものはなにもなくなった。すす、とガイアの手が内腿を撫で上げていき、その感触にふるりと体が震える。これから来る刺激を体が覚えてしまっている。足の付け根まで上ってきた指が秘所を探り、既にしとどに濡れているそこに触れた。
「あっ……ん」
「しっかり濡れてるな」
「ふ、ぁっ!」
 秘所を割って侵入してきた指は、とうにの悦い所を知り尽くしている。そこを刺激され、の喉から甘い声が上がった。
「あっ、あっ、」弱いところを断続的に触られ、何度も嬌声が上がる。
「あ、あああ……っ!」
 熱が集まり、弾けた。一際高い声が上がり、の体からくたりと力が抜ける。
 達した余韻で頭をもうろうとさせているうちに、足を大きく開かされた。どろどろにとろけている場所に、熱いものがあてがわれる。
「挿れるぞ」
「ん、」
 ず、と熱と質量を伴ったものが入り口を割って入ってくる。指なんて非じゃないくらいに、熱くて、大きい。それを受け入れるように形を変え、けれども拒むかのようにきゅうと胎が締まる。そして擦れ合いながらも奥へと進んでいくガイア自身をしっかりと咥え込んだ。
「ふぅ……」
「は、ぁ」
「……動いてもいいか?」
「いいよ……ぁっ」
 咥え込んだばかりのそれが抜けていく感覚に無意識に声が上がる。外れる寸前まで引き抜かれたそれが再度侵入する際に、一層感じる位置を抉るようにしながらまた中に入ってくる。
「あっ、ガイア、そこっ、ぁんっ!」
「好きだろう? ここ……っ」
「んっ、あっ、あっ」
 粘膜の擦れ合う音を立てながら、始めのうちはゆるやかだった抽送が、徐々に速さを増していく。感度のいい場所を何度も突かれ、その度にからは嬌声が上がる。
 まるで全身の感覚が一つに集まっていくかのよう。
 じわじわと侵食してくる感覚には、
「ガイア、も、だめ……!」
「っ!」
「あ、あああ――!」
 奥を一際強く突かれ、弾けた熱と共に意識を手放した。


 *


 ぱちり。目を開ける。眼前に広がるのは褐色の肌――。
 視線を少し上にやれば、目蓋を閉じたガイアの顔があった。微かな寝息も聞こえてくる。
「……」
 は寝起きの頭でぼんやりと記憶を取り戻そうとする。
 きょうは、確か、ガイアと二人きりの誕生日パーティーの日で。仕事も無事に終わって、鹿狩りで料理をテイクアウトして、それから……。
 合鍵を渡してからの出来事を思い出し、頬が熱くなった。ガイアと体を交えることに慣れはしたけれども、羞恥心がなくなったわけではない。身じろぎしようとしたが、体にガイアの腕が回されているため叶わなかった。
「ん……」
 一人で身悶えていると、ガイアから微かな呻き声が上がった。はっと見れば、下りていた目蓋がゆっくりと持ち上がり、星を宿す不思議な虹彩がはっきりとを捉える。
「……起きたか? つらいところはないか?」
「多分、平気」
 情事の後の特有の気だるさは感じるけれど、体に違和感はない。そう思って返事をすれば、隻眼が意味ありげに細められた。
 嫌な予感がする。
「ならもう一回いけるな」
 いつの間にか腰を撫でられている。その手つきがなんというか、情事の最中を思わせるもので。
「ちょ、待っ、明日――」
「明日は特に予定もない。だろ?」
「そうだけれども……」
「嫌か?」
 そう、耳元で囁かれ。
「嫌、じゃ、ない……」
 絞り出せた精一杯の声が、それだった。

between 11/30 and 12/11(2023.03.07)

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